■MOREソフトは誰の物?

まるとWebでCE-KT5の情報が公開されているのを見たシャープ担当者から公開を中止して欲しいというお願いというよりは命令に近い形の要求があり、私としては商用MOREソフトの開発を考えていたこともあり、その時点でシャープさんと関係を悪くするのは得策で無いという今考えると誤った判断を下し、一旦はWebから情報を引き上げました。

その話し合いの場でシャープ担当者が私に言った「こんなことする人にCE-KT5は売らない」という言葉は今でも思い出すたびに怒りが込み上げてきます。

MOREソフトはシャープの独占物であり、それを作ってよいのはシャープが認めたところだけだという当時のシャープ担当者の傲慢な態度はその後に知ることになるシャープさんの基本的体質なのですが、弱小とはいえ会社を率いる私のプライドを打ち砕いたものです。

また、同時期にシャープ社員の方もCE-KT5を入手されてFPDAJ上で記念すべき公開MOREソフト第1号が公開されたのですが、それも同じ担当者の手で公開中止に追い込まれています。

そのときの過程もつぶさに見ていますが、まるで鬼の首をとったかのようにその社員に公開中止を迫っていました。(実際にその社員の方とメール交換して実情がわかりました)

この時感じた悔しさとシャープという会社の姿勢に対する反感が後のまるとWebやざうまがの言いたい放題路線の原点となっています。


・結局ユーザーのものだった

前述のWebでの公開禁止命令はいきなり下されたわけではなく、その前にMOREソフトに関する情報交換などしていました。

当時私が提案たものはテキスト系ツールとパソコン通信のためのソフト(巡回、ログ読みなど)など、個人が必要とするものでした。

一方のシャープ側担当者は企業向けのソフトばかり考えており一般ユーザーに役だつソフトの発想が無かったように思えます。

これが回りまわってアイクルーズのような誰をターゲットにしているのか分からないようなハードに繋がっているように思えてならないのですが、シャープ(に限らず大手メーカー)は一般ユーザーのことなんか何も考えていないということを感じさせられた出来事です。

結局その後CE-KT5はCE-KT7となり市販が実現したわけですが、初代CE-KT7は店頭で8万円を超えており購入したくても躊躇する状況でした。

当時競合機種になりつつあったPalmPilotの開発環境は環境としての整備状況や難易度に問題があったとはいえ、無償に近いものも存在しておりSZABの開発環境は「高い!」と顰蹙を買っています。

転機が訪れたのがMOREソフトコンテストで、このときCE-KT7がお試し版として期間限定で公開され誰でも無償でMOREソフトを作ることができるようになりました。

MOREソフトコンテスト自体は審査員の暴言問題などで後味の悪い結果となりましたが、結局のところ成功裏に終わり、その後のユーザーメイドMOREソフトの開発に弾みがつきました。

シャープさんが個人ユーザーに売らない「建前」としてあげていたのは「ユーザーサポートに手が回らない」というものでしたが、サポートが無くても勘所さえわかればソフトなど作れますし、ネット上にFAQやフォーラムを作ればユーザー間で情報交換できます。(現在のSZABが好例)


・SZABは実質無料に

この成功に味を占めたのか、シャープさんはSZABお試し版の制限期間を随時延長するという方針にしたようで今のところ1999年12月末までは無料で開発できます。

また、SZAB本体の価格も半値程度まで下がりオンライン販売で4万円以下で購入することができるようになっています。

このように、MOREソフトはユーザーがユーザーのために作ってこそ価値があり、ザウルス全体のシェアップに貢献することになるわけですが、CE-KT5当時の担当者は企業にばかり目が行き個人ユーザーのユニークな着目点や我慢強い開発努力を軽く見ていたといえます。

現在シャープスペースタウンで公開されているコンテンツで最も売れているのがザウルス文庫ですが、その前提となる文庫ビューアはMOREソフトコンテストに応募されたユーザーメイドのMOREソフトがベースになっています。

シャープさんが最も嫌がっていた個人開発のMOREソフトがシャープのインターネット戦略を担うスペースタウンの屋台骨を支えているともいえる状況です。


・ザウルスを広めたのは個人ということを忘れたシャープさん

私も営業をしていましたから理解できるのですが、確かにザウルスをハンディターミナル的に使うシステムセールスは販売台数がまとまり売上金額が多くなるため魅力的な商売です。

しかしザウルスのようなPDAは個人ユーザーが店頭で購入する場合の金額の方が多いし、何り「ザウルス」というブランドを広く知らしめたのは個人のクチコミ(または布教活動)の賜物です。

シャープさんはこういった個人ユーザーの恩を忘れ、ハードが良かったから売れたという勘違いをしてシステム販売中心の体制を築き、MOREソフトは業務用と考えたからこそCE-KT5担当者のように殿様商売ができたのでしょう。

個人なんて相手にしている暇は無いという態度がミエミエでした。

ユーザーが自分の望むソフトを手に入れることができる可能性が否定された。

こういう雰囲気はなんとなくユーザーにも伝わり、MOREソフト開発が一般向でも可能となる間にに失った(多くはHP200LXやPalmPilotノートPCに流れた)ザウルスユーザーの数は膨大です。

特にザウルス布教運動の中心層が他機種に流れたためザウルスの中心層が崩れてシェア低下を引き起こしてしまったようです。

私の周りの事例で見てもザウルスなどを使っていた層が会社のコンピュータ導入に関しての影響力を持ち、その後のモバイル機器選択にもアドバイスする立場にいました。

その層がザウルスに対して見切りをつけたからこそ、企業における導入もWindows CE機ノートPCが基本となってしまったのです。


・手遅れになる前に

ザウルスが売れたのはハードも良かったのですが、ユーザーの使い方が優れていたからであり、この時点で既にアプリケーション中心のPDA革命が始まっていたとも言えます。

現在はソフトハードにオープン志向を取るPalmPilot系WorkPadが売れ筋ですが、これは購入直後の状態ではまともに使えません。

各種ソフトを適切にピックアップしインストールすることで手になじむ手帳感覚で利用できるようになります。

一方のザウルスは購入直後から使えるようになりますが、ちょっと自分のしたいことができるとそれを実現するソフトが得られない状況が続いています。

現在MOREソフト作者は増えつつあるとはいえ、本格的にソフトを増やすためにはソフトを販売する能力のあるメーカーにとってうまみのある環境が必要となります。

ある程度の規模をもったメーカー製ソフトのシャープスペースタウン上での販売も有効な手段ですが、個人が開発したソフトも販売可能な環境整備も必要でしょう。

現在SZABサポートWebでユーザーが作ったフリー/シェアウエアのMOREソフトリンクは存在していますが、ソフト解説方法の統一やダウンロードの安定などシャープさんが関わることのできる問題点がいくらでもあります。

MOREソフトを作れるユーザーはモバイル機器の特性をよく理解しており、特にザウルスをターゲットにしなくてもPalmPilotやWindows CE機のソフトを作ることもできます。

囲いこみという言い方はおかしいのですが、MOREソフトを開発し公開するユーザーに対する支援がこれからのシャープさんの課題でしょう。


■MOREソフトコンテストの汚点

企業によるMOREソフト開発は思うように進まず、ザウルスのキラーアプリともいうべきコンテンツはなかなか登場しませんでした。

まわりを見ればPalmだ200LXだとオープン志向でユーザーがアプリケーションを開発しているPDAが台頭していきます。

ザウルス危うしという時期にきて「MOREソフトコンテスト」が開催されましたが、その過程にはオープン志向、ユーザーコミュニティといった特性を理解できない運営側の思い違いにより後味の悪いものを残しています。

->MOREコン98(その1)

シャープさんが個人ユーザーに売らない「建前」としては「ユーザーサポートに手が回らない」というものでしたが、サポートが無くても勘所さえわかればソフトなど作れますし、ネット上にFAQやフォーラムを作ればユーザー間で情報交換できます。(現在のSZABが好例)